第56回日本文化人類学会研究大会 開催校シンポジウム

岡正雄と現代人類学

1)問題の所在

 本シンポジウムは、大戦間期から戦後にかけての激動の時代を奔走した代表的な民族学者である岡正雄の足跡を再訪することで、現在、人類学を含めた学術・教育界が直面している課題についてヒントを導き出すきっかけとしたい。

 岡は、戦間期であった1929年にウィーン大学に留学して以降、第2次世界大戦中・戦後といった海外渡航が難しい時代において、時代を反映するように海外調査や国際交流に奔走した人である。民族学(文化人類学)のみにとどまらず考古学や形質人類学を含めた総合的な研究・調査に従事した岡の功績は、日本だけでなくオーストリアにおける複数の学術分野に影響を与えてきた。しかし同時に、戦後になって国策研究所として批判されることとなる民族研究所の設立・運営に奔走した岡の姿勢は、時代の流れの中で純粋学術と応用研究の間のバランスの取り方の難しさを私たちに提示している。

 

2)シンポジウムの目的:

 岡正雄が従事した研究・社会活動を時代的文脈とともに再考することにより、現在、人類学が直面する課題に対するいくつかのヒントを導き出すことを目的とする。

 岡による数多くの取組の中でも、本シンポジウムでは下記の3点に焦点を当てる:

  • 国際交流とモビリティ:戦間期にオーストリアに留学し学位を取得した岡は、状況が悪化した戦中からその後も国際的な移動に制限がかかった戦後においても、越境的な学術交流・学生指導に従事した人類学者であった。国際交流における岡の貢献を手がかりに、現代の学術・教育交流を厳密な意味で国際化するためのヒントを探る。
  • アラスカ学術調査団と現在:考古学、地理学、民族学、山岳、報道、記録映画の6班による海外プロジェクトであった1960年のアラスカ調査団は、日本人の海外渡航解禁以前としては例外的な学際的な海外調査団であった。このアラスカ調査団の取組を振り返りながら、資料整理をはじめとして現在まで続く調査団の意義と影響を探るとともに、資料整理の過程で見えてきた岡と現地住民との関係に迫る。
  • 応用研究・研究実践:岡が奔走し戦中の1943年に設立された官営の民族研究所については、長年、多角的な議論がなされてきている。民族研究所にまつわる議論を再訪しながら、政治と学術の距離の問題を多角的に討議する。

 

登壇者:テーマ

  • 清水昭俊神奈川大学):岡正雄の生涯と民族学
  • ヨーゼフ・クライナー(ボン大学):人間としての岡正雄
  • 佐々木憲一(明治大学):明治大学によるアラスカにおける考古学調査の概要とその成果
  • 碇陽子(明治大学)・柳沼亮寿(明治大学・日本国際協力システム):アラスカ学術調査団派遣の意義と影響:岡と「ヌナミウト」

 

コメンテーター

  • 齋藤玲子(国立民族学博物館)
  • 佐久間寛(明治大学)
  • 山内健治(明治大学)

 

シンポジウム動画